よく電話にて、「***部分の修理代金が知りたい。もちろん具体的なことは言えないでしょうけれど、一般論でよいので」という内容の電話をいただきます。

 しかし、実物を見ないで修理代金がわかるわけがないのです。なぜならば楽器の状態によって、行うことはまるで違ってくるからです。例えば今日の電話の場合には、「ネックが取れてしまった」というトラブルでした。いい加減な技術者ならば、取れたネックを適当に再接着することでしょう。そんなので良ければ、見積もりを出すことも簡単です。

 しかし常識のある技術者ならば、それ以外の直さなければいけない不具合箇所も一緒に直します。例えば、ネックが取れてしまったついでに、指板がどうしようもなく薄すぎる場合には、指板も交換するとか。または、ネックの角度を高く修正し、それに伴って駒を交換することになるとか。または、楽器の状態が無茶苦茶な場合には、それ以外の修理を行うとか。

 まともな修理とは、壊れる前の状態にきっちり戻すのではなく、「良くなるものなら、さらに良くする」事なのです。ただし、楽器のグレードによってもその考え方は変わってきます。

 このように、修理・調整は単体で考えることはできないのです。私の工房では毛替え作業さえも、料金には若干のばらつきが出るくらいです。

 楽器店によっては、修理代金が細かく表になっているところもあります。それはその楽器店の考え方なので、私がどうこう言うことではありません。ただ、お寿司で「マグロは***円」、「鯛は***円」、「鯵は***円」と言っているようなものです。マグロにもピンからキリまで色々ありますし・・・、回転寿司じゃないんだから。

 いずれにせよ、私は意地悪で言っているのではありません。本当に電話では何もわからないから言っているのです。よく「一般論で良いから」という人がいますが、「一般論」こそがわからないのです。強いて言えば、「大体の場合、数万円~数十万円です。数千円では無理です。数百万円ということも、たぶんないでしょう。」としか言いようがありません。

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