「音の表現力」というと「繊細な音、演奏」という先入観を持っている人が多いです。ある意味では間違っていませんが、かなり多くの人が勘違いしていて、「小さな音」や「線の細い音」が繊細であり、そして微妙な音の表現を表していると思っているのです。
ところが弾き比べ実験してみると判りますが、そのような音は連続して聴くと、平面的で(強弱がなく)、音の表現力に乏しいと言うことが判ります。人間の聴覚は「絶対音量」や「絶対音色」に関しては、良く言えば順応製があり、悪く言えば鈍感なのです。すなわち、同じ音だけを聴いていると慣れてしまうのです。繊細なpの音は、パワフルなfの上で初めて生まれるものなのです。
それではどのようにして「音の表現力」を生むための「楽器の音量」を確保するかというと、下記の3要素です。
1.性能の高い弓
2.性能の高い楽器+高度な調整
3.演奏の技術
例えば、以前に性能の高い竿の腰の強い弓と、並み性能の弓で弾き比べ実験したところ、その音量には最大5dBの違いが出ました。
また同じように、とても音量の出るJ.Kantuscher作のヴァイオリンと一般的な性能のヴァイオリンとの弾き比べをしたところ、これも同じように3~4dBの音量差を確認できました。当然、演奏の技術力でも明らかな差が出ます。
「大きな音量」というと、「乱暴」とか「雑」な弾き方を思い浮かべる人がいると思いますがそれは間違いです。本当の意味での「大きな音量」というのは、例えばオペラ歌手が歌うような「朗々とした音量」なのです。決してヒステリックやなげやりの歌い方ではありません。
このような「朗々とした」音量こそが、「繊細なpp」を生み出し、それらの様々な音量の部品を組み立てることによって「音楽」が生まれるのです。そしてそれを聴いている人たちが「表現力」を感じ取るわけです。
それにしても、弓で5dB、楽器で4dB・・・数字では大したことの無いように思えるかもしれませんが、凄い差ですよ。
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