昨日、私の工房にて弓を購入してくださった方(プロの演奏家の方)と、購入された弓の重さの話になりました。

 「今まで使っていた弓より軽いのに、弓先までしっかり吸い付く感じで弾きやすい」との感想でした。私もそう感じていました。

 それで実際にどのくらい軽いのか?と、計測してみたのです。そうしたら、意外にも購入された弓の方が重かったのです。

 こういう事って珍しいことではありません。測りで計測した質量と、実際の重さの感覚というものは全く違うのです。もちろん重要視すべきなのは、自分自身が感じた重さの感覚の方です。なぜなら、測りで計測した質量の数値には、「質量」しか含まれていません。ところが、自分で実際に試奏して感じた「重さの感覚」の中には、「静的重心」、「力のモーメント」、「弓竿の反りによる特徴」、「外観、美観」など様々な要素も含まれているからです。

 だから私は、質量は公表していません。なぜなら、質量とかの数値を公表してしまうと、本来の感じた感覚がそのたった一つの数値に引きずられてしまって見えなくなってしまうからなのです。これは特にヴァイオリン弓を選んでいる、頭でっかち(能書きに走っている)の人に多く見受けられることです。判っていない人ほど数値とかブランドとかの目に見える物に拘るのです。

 それでは弓を選ぶ上で「自分の感覚」のみが重要なのか? というと、そういう事を言っているのではありません。誤解しないようお願いいたします。今回述べているのは「重さの感じ方」だけの話です。

 「良い弓とは?」という話になると、「自分の感覚では、”絶対に”選ぶことはできません」。だから私が、これほどまでに自信をもって、さらに熱心に、「弓の性能の理論」を主張しているのです。

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