よく、「先生から、『もっと裏板を鳴らすように』演奏してと言われる」という、話を聞きます。

 ところがこの「裏板を鳴らす」という言葉(表現)を、勘違いしている演奏者や技術者がたくさんいるのです。裏板を振動させて、裏板から音を発する事だと勘違いしてるのです。

 酷い場合には、楽器を高く上げて演奏することで、聴衆に裏板を少しでも向けた方が良いという、バカげた話も聞いたことがあります。それも、一人二人からではないのです。

 これは大きな間違いです。

 というのは、裏板には、表板と比較して密度が高い(重い)カエデ材を使っていて、さらに響板の厚みも表板よりもかなり厚手なのです。だから裏板は表板と比べて振動しにくいのです。あえて振動しにくく設計されているのです。

 だから裏板から主となる音が発せられるわけではありません。裏板は、共鳴板と言うよりは、表板の共鳴板を振動させるための土台としての役割の方が強いのです。

 それでは「裏板を鳴らして」という表現の意味は何かというと、「裏板方向に向かって、しっかりとした圧力を掛けて」という意味なのです。

 しかし、残念ながら弓の性能が悪い人は、原理的にそれができません。だから弦を弓のスピードで大きく震わせるとか、箱鳴りの楽器を求めてしまうと言う勘違いに走ってしまうのです。この辺りをいくら言葉で説明しても、弓の性能が低い人にはなかなか理解してもらえないのが(それどころか反感を買うばかりです)じれったいところです。

 実際に、真の意味での良い弓を手に入れた人にだけ、納得してもらえる部分です。

補足:全く同じ意味で、「魂柱に音を伝えて」という表現もあります。チェロの場合には、「舞台を鳴らして」という表現も同じだと思います。

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