「良い楽器」の中には、たくさんの要素が含まれています。例えば、「ラベル」だとかもその要素の中の一つであることは間違いありません。
しかし、あくまでも私の考えですが、「良い楽器」の一番の核となるものは「音響的性能」だと思います。楽器という物が、音を発する道具である以上、音響的性能の要素は重要です。
これは、「オーディオ」の要素とも共通しています。もちろん、オーディオには「演奏」というとても複雑な要因がありませんので、楽器と同じとは思いませんが、逆の事も言えて、楽器を考察する上での「簡易モデル」と言っても良いと思うのです。
だから「演奏者としてのオーディオ」を追求することで、より楽器の本質が見えてきて、それによって最終的にはより本質的に良い音を発することができるようになるのです。今までに見えていなかった音や要素が見えるようになるのです。これは本当です。
さて、話を本題にもどして、「良い楽器とは何か?」ですが、それは「音響的に優れた楽器」です。
当たり前と思うかもしれませんが、ほとんどの方は、「自分の好みの音」とか、「自分が弾きやすい」とかの主観的な価値判断で「良い楽器」を決定しています。
しかし、再びオーディオに話を戻してください。ほとんど演奏者は、良い音のオーディ装置で音楽を聴いてはいないのです。なんとなくの音質(=真の音の一部分だけ?)で音楽を聴き、評価したり感動したりしています。しかし、私の工房できちんとした音でレコードやCDを聴くと(何も私の工房のオーディオ装置が最高と自慢しているのではありません。多くのお客様の装置よりはまともなだけです)、「今まで聞こえなかった音が聞こえる」とか「今までとは違って聞こえる」とかの感想が生まれるのです。
例えが極端かもしれませんが、ルノワールの絵画の僅か一部分だけ(例えば10cm四方)を取り出して観て、「さすがルノワール!」って感動しているようなものです。もちろん、その「僅か一部」もルノワールであることは間違い有りません。しかし、それで感動するのはちょっと早くはありませんか?
すなわち、良いオーディオ装置とは、「今まで聞こえなかった音まで再生出来る」装置とも言えます。
これを再び楽器に置き換えてみましょう。「良い楽器とは、今まで出すことの出来なかった音まで正確に出せる楽器」とも言えます。これはオーディオと同じです。
本来出るべき周波数帯域の音が出ない楽器で出した音を、「自分の好み」とか言うのは、ちょっと??ではないでしょうか。逆の事も言えて、音響性能的に優れた楽器は、発音性能、ダイナミックレンジ、周波数帯域のどれもが優れています、だから倍音成分が正確に出るので音程が取りやすく、弾きやすいのです。
良い楽器が見えるようになるためには、「演奏者としてのオーディオ」への興味はとても重要なことだと思います。自分のなかで「音響」的な考え方を育てるためです。
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