先日私の工房で弓を購入した方(プロの方)の感想の一例を紹介します。
私の工房で紹介する弓は(価格帯にもよりますが)竿の腰が強いものです。その方の弓への第一印象は、口には出しませんでしたが、「カチカチで、跳ね返されて弾けたものではない」と感じたそうです。
ところが私の「弓の性能の要素」とか「弓への圧力のかけ方の理論」とかの説明を1時間ほど聞き、さらに自分自身で実際にその説明を確認したりする内に、「あれ? こんな強さでしたっけ? もっとカチカチに強かったような・・・? この弓、ほんとうに最初に弾いた弓ですか?」と、不思議がりました。
人は自分自身に「絶対的な価値判断」があると思い込みがちですが、意外とその感覚というものはいい加減なものなのです。その方も、私の工房で説明を聞いたり、実際に性能の高い弓に触れる前は、どうしもそれまでの性能の低い弓(とても高かったらしいです)を基準に物事を判断しています。それで、「カチカチで、跳ね返されて弾けたものではない」との第一印象をもったのです。
ところが、私の説明する事は「理」にかなったことです。脳がその「理」を理解すると、あっという間に「理にかなった演奏」が可能になるのです。即ち、自然体として圧力をかけた演奏ができるようになります。それで「あれ?」という感想になったわけです。
もちろん、そこから出る音は、最初に工房にいらした時とは別物です。