もう30年間近く、私は一貫して「弓の性能」の科学的意味を説明してきました。ところが、それに興味を持ってくださった方は、私の工房で弓を購入してくださった、ほんの一握りの方だけです。特に、プロの演奏者や、音大生、上手なアマチュア演奏者にほど興味をもたれないようです。

 もちろん、個人の自由ですから、何を信じるかそれはそれでかまいません。

 しかし、良い弓と性能の低い弓とでは演奏が明らかに違うのに、それでも興味は無いのでしょうか?

 それとも、その違いが見えていないのでしょうか? それとも、これまでの自分の考え、音楽的価値観を変えるのが怖いのでしょうか?

 例えば、先日観た二重奏の演奏の映像では、一方の演奏者の弓先での返しは見えるのに、もう一方の演奏者の弓先の返しは、まるで時間が跳んでしまったように見えないのです。こういうボウイングって、よくあるのです。

 すなわち、弓先で圧がかかっていないので、加速して弓を返してしまっているのです。だからもちろん、音も出ていません。

 一方、弓先でも返しがはっきり見える演奏者の音は、最後まで音も見えています。ヴィブラートさえ聞こえてきます。これが「溜め」なのです。

 想像ですが、二者の弓の性能の差がボウイングに影響を与え、それが実際の音の差となっているのだと思われます。

 このように、科学的に理解することで、様々なものが「見えてくる」のです。

 演奏の練習も重要ですが、理論、仕組みについて教わることも重要なのです。特にプロの演奏者ほどそれを勉強していません。なぜなら、音楽大学でそんな授業なんて存在しないからです。だから感覚論ばかりなのです。

関連記事: