前回のブログにも「お断りします」と書きましたように、私は私の工房の方針に合わないお客様はお断りしております。もちろん、せっかく連絡したのにも関わらず断られた側としては、残念さを感じるであろうと言うことも承知の上なのです。

 事実、以前数回あったことですが、お断りした方が電話口で怒りだして、「目の前で困っていて、助けを求めている人をいるのを見殺しにするのか!」みたいな事を言われたことがあるのです。それも一回ではなく、数人からです。

 しかし、いいわけに聞こえるかもしれませんが、私は(または、我々の業界は)「医者」ではないのです。ここを勘違いされては困ります。

 医者と、我々との根本的な違いは、国家の医療制度に含まれているかということです。もっと具体的な事を言えば、医療とは国家から大きな補助を受けているのです。だからその逆に、「義務」も生じるわけです。

 我々は国家からの補助など全く無いに等しいです。だから自分は自分で守るしかないのです。例えば、「赤ひげ先生」のように「善意」とか「正義感」だけで全てのお客様を受けていたら、作業量がいっぱいになってしまって、それは結局の所、「質の低下」につながります。または、「国家からの補助金無しで」慈善事業のような事ばかり行っていては、工房はつぶれて消滅してしまいます。

 すなわち、工房の「技術力を維持する努力」や「工房経営を維持する努力」、「弟子を育てて、技術を後世に伝える努力」も、自分のためだけではなく、最終的にはお客様のために行っているとも言えるのです。そしてそれは、残念ながら医療制度のように国家は一切援助(補助)してくれないのです。だから、鬼のように厳しい態度を貫いて、自分自身で行っているわけです。

 実際自分自身でも、「他人に厳しい態度をとる」事に対して疲れてしまうこともあります。なぜなら、他人に厳しい事を言うということは、それはその刃を自分自身に突きつけているのと同じだからです。しかし、私が「本質」を追求しないで、ラベルとか感覚とかの能書き情報で “お客を気持ちよくさせて” 商売をするようになったとしたら、私の存在意味があるのか? と、常に自問自答しながら、自分の進む道を正しているのです(格好付けているように思われるかもしれませんが、常にそれを考えています)。

 私の工房で勉強している弟子の林さんや川口君にも(もっとも、川口君にはこれからですが)、その事を強く教えています。「何を自分の芯にするのか」と。

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