先日ヴィオラのお客様(アマチュアの方)から、「大きなヴィオラの方が音が良いのでしょうか?」みたいな内容の質問を受けました。多くの方も42cmとか43cmとかの大きなヴィオラの方が音が良い、特に低音が出ると思い込んでいるようです。
ところが話はそんな単純な事ではありません。先のブログ記事でも書きましたように、楽器で重要なのは「作りの良さ」です。ようするに、下手くそな作りの大きなヴィオラは、単に弾きにくいだけで、良い音が出るというものではないのです。逆の事も言えて、小さめのヴィオラであっても、的を射たとても良い作りのヴィオラの場合、その大きさからは想像できないような豊かな音色が出ます。
ただ、40cm以下のヴィオラの場合、原理的に弦の張力が弱くなるので、そういった原理的なデメリットもあります。
一方、42~43cmとかの大きなヴィオラの場合には、弦長が長くなるためにポジション間の幅が広くなって押さえにくくなるというデメリットも出てきます。さらに、弦の張力が高くなるため、作りの良くない楽器、特に響板の厚みが厚すぎる楽器では、発音が鈍くなりすぎて弾き疲れしてしまうのです。しかしその逆に、良い作りの楽器の場合には、42~43cmでも、その大きさをあまり感じないくらいに弾きやすいです。
私の答えとしては、「作りの良さ」が一番で、楽器の大きさは2番目にきます。しかし、できることならば、40.5cm~42.5cmくらいの楽器を選ぶべきです。特に男性で背の高い方や、プロの演奏者は42cm前後の楽器を選ぶのが理想ではあります。もちろん、「作りの良さ」が絶対条件ではあります。
その一方で、背の低い女性の方やアマチュア演奏者は、無理に大きな楽器を選ぶ必要はないと思います。作りの良いヴィオラならば、40.5cmくらいでも十分ヴィオラらしい音が出るからです。ただ、39cmとかのサイズは、いくら作りの良い楽器であったとしても、私ならお勧めしません。
余談になりますが、「サイズは小さめ、胴体は厚め」というヴィオラもよく見かけます。胴体の容積を大きく設計して、しかし弦長を短くすることで押さえやすくするという考えの楽器です。多くの方は容積が大きい方が単純に低音が出ると思い込んでいます。いわゆる「空洞共鳴」の原理です。
この手のヴィオラの製作理論は、物理の考え方を知らない能書きに走っている製作者が行いがちな楽器です。
しかし、楽器の低音は決して空洞共鳴の周波数、すなわち楽器の容積で決まるわけではありません。弦長が小さくて(すなわち弦の張力が弱めで)、容積が大きい(すなわち空洞共鳴周波数が低め)の楽器の場合、ある低音域だけが箱鳴りしてしまって、こもった音になってしまうのです。単純に「低音は容積で決まる」というものではないのです。
ヴィオラの製作者はヴァイオリンよりもはるかに難しいです。だから良いヴィオラって、とても少ないです。話を最初に戻しますが、「サイズ」と「音の良さ」とは基本的に関係はないと思うべきでしょう。