フィルム時代から写真撮影を行っている方には、「物撮りでは三脚を使って撮影する」というのが常識です。一番の理由は、昔のフィルムの感度では手ぶれしてしまうから、という単純な理由です(もちろんそれ以外の重要な理由も沢山あります)。

 しかし最近のデジカメの性能はとんでもなく高くなりました。画素数だけでなく、感度も高くなったので、室内で手持ち撮影が気軽にできるようになりました。蛇足になりますが、私が幼稚園とか小学校低学年だった頃の「カメラ」って、野外(太陽の下)で撮影するものでした。室内で撮影するなんて無謀なチャレンジでした。事実、室内で撮影した写真って、全てブレブレか、または暗~く写っています。

 話が逸れてしまいましたが、最近のデジカメでは手持ち撮影が気軽にできるようになり、それはそれで素晴らしい事です。しかし、仕事にも使える弦楽器関連の(別に弦楽器に限らないと思いますが)物撮りの場合には、手持ち撮影はよくありません。

 というのは、手持ち撮影をしようと思うと、ついついブレが出にくい「広角マクロ撮影」をしがちだからです。私の弟子達も、三脚を立てるのが億劫で、ついついやりがちです。私が口を酸っぱくして注意しても、なかなか三脚を立てないのです。

 それでは「手持ち+広角マクロ撮影」の何が悪いのかというと、撮影対象物が歪んでしまうのです。さらに被写界深度が深くなりすぎて、撮影対象物の立体感が出ないというデメリットもあります。さらに、室内での手持ち撮影では必ず手ぶれが生じています。趣味の撮影の場合にはどうでも良いことですが、仕事に利用する撮影では、些細な手ぶれとは言え、良いことは一つもありません。

 そうそう、私の工房では厳禁なのでやる人は一人もいませんが、楽器の(商品)撮影で「手持ちストロボ撮影」をしている同業者もとても多いのです。ストロボを正面からダイレクトに当てるので楽器が安っぽく写るし、ニスにストロボの反射が大きく写ってしまう場合もありますし、なんと言っても、f孔が白く写ってしまうのが間抜けです。

 そしてこれが一番なことなのですが、三脚を立てて撮影する一番のメリットは、自分の両手が自由になると言うことなのです。カメラを三脚で固定することで、当然手ぶれも防止できますが、「同一構図で、複数の撮影が可能になる」という点です。
 例えば、片手でレフ板をもって光りの調整をしたり、照明を当てる角度を変えてみたり、絞りを調整してみたり、フォーカスを厳密に合わせたり、手持ち撮影では手ぶれが起きるので絶対にできないような中望遠マクロ撮影を行ったり、「三脚にカメラを固定する」というたったそれだけで、可能になることがたくさん増えるのです。

 私の工房での弟子教育では、こんなことも行っているのです。「それって、ヴァイオリン製作とは関係ないだろう?」と突っ込みがあるかもしれませんが、とても大切な事なのです。職人は、こういうことも当たり前のようにできなければならないというのが、私の教育方針です。もちろんプロのスタジオカメラマンとかのレベルの話しはしていません。

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