良い木材(針葉樹の場合)は寒い地方の山の北斜面でじっくりと育った木材が良いとされています。これはどういう理由なのか説明します。

 まずは、良い木材とは何かを説明しなければなりません。良い木材とは使用する目的によっても若干異なっては来ますが、基本的には次の要素が上げられます。

1. 強度が高い
2. 強度が高い割に軽い
3. 見た目が美しい
4. 捻れがなく、真っ直ぐに成長している
5. 経年変化による安定性
6. 大きい(樹木の直径)

 トウヒやスギなどの針葉樹の場合、木材は春材(白っぽい部分)と晩材(年輪)で構成されていますが、上記の要素を含んでいる良い木材とは、年輪の感覚が狭く、さらにその感覚が一定間隔で、さらに年輪自体がキリッと引き締まっていて幅が細いのです。そしてさらに、木材自体に捻れがない事です。

 なぜ「寒い地方の北斜面」かというと、山の北斜面は太陽の光が当たらずに、樹木の成長としてはとても厳しい環境です。このような環境下では、樹木の成長がとても遅いのです。すなわち、年輪の間隔が狭く、結果的に木材の強度が高いのです。
 さらに寒い地方では夏から秋になる時間が短いので、晩材の成長(樹木の休眠)が急激に起きます。これが晩材がぼやけないでキリッと引き締まっている理由なのです。季節がだらっと過ぎてしまうような地域で成長した木材は、木目がボヤッとしていて強度も低いです。また、太陽が当たるような木材にとっては心地よい地域で育った木材は、成長が早いので春材部分が広く、結果的に強度が低いのです。

 さらに、重要なのは樹木がもつ内部歪みです。樹木は毎日、太陽を追う性質があります。ひまわりの生長をみると判りやすいです。これは太陽の光が当たる環境ほど顕著なのです。そしてそのような恵まれた環境でスクスクと育った樹木は、成長は速いのですが、毎日太陽を追った結果、捻れの内部歪みをもった樹木になってしまうのです。一方、太陽の動きとは無縁の北斜面で長い年月をかけてじっくり育った樹木は、捻れを持たない真っ直ぐで理想的な木材となるのです。
 ちなみにヴァイオリン製作の表板用いられるドイツトウヒ材を、木材業者から購入するとき、最上級の表板材はあえて製材していない「割り材」として売られています。「割り材」は木材の素の状態が判るので、ごまかしが利かないのです。すなわち、自信のある高品質のドイツトウヒ材が割り材として販売されることが多いのです。

 良い楽器とは、このような貴重な木材を使って作られています。

 人の「成長」とも共通する部分が多くあって、とても興味深い事です。安易な、手っ取り早い成長(教育)は、一見成長しているようでいて、本質的なことが劣っている可能性もあるのです。

 木材は正直です。ごまかしはきかないのです。

 最後に、我々は、樹木を手間暇かけて育ててくださっている方々への敬意と意識を持たねばなりません。この今も、山(樹木)の手入れをしているはずです。彼等(彼女ら)なしには、偶然には良い木材は育ちません。

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