素敵な演奏ってどんなものなのか? 美しい音って何なのか? おそらく永遠の課題だと思います。
私はピアノ演奏がちょっとしたヒントだと思っています。
「ピアノ」という楽器の特徴は、実に合理的に演奏することができる楽器です。「ピアノはオーケストラの曲も演奏できる」という人もいます。実際、10本の指を使って、実に厚みのある音を同時に出すことが出来る楽器は、そうそうありません。
ところが、それがピアノの欠点でもあるのです。諸刃の剣です。
例えば、よくテレビに出てくるある有名なピアノ演奏者は、アドリブで何でも弾きこなします。しかしその演奏スタイルは可能な限り多くの音(和音)を速く弾くような、テクニックをひけらかすような演奏なのです。
その演奏者批判を言っているのではありません。それではピアノという楽器の魅力が伝わらないのです。
別の例をあげます。ピアノ演奏で、ピアノ連弾という曲があります。2名の演奏者が並んで演奏したり、2台のピアノで弾く場合もあります。
ところが、音が2倍に増えたからと言って、そこまで迫力が増すわけでもありませんし、和音の表現力が増すわけでもありません。ピアノ素人の私には、一人で弾いているのか、連弾なのか、言われなければ判らないです。
ピアノ演奏者は、「一人では演奏不可能」という演奏技術的な観点から直ぐに気づくかもしれませんが、純粋な音だけで気づく人は少ないと思います。
何が言いたいのかというと、「同じ音を沢山重ねても、単純に魅力が増すわけではない」という事です。
さてここでようやく本題のヴァイオリンの音(もちろんチェロでも)の魅力は何かというと、単音の美しさなのです。シンプルさの追求と言ってもよいかもしれません。まるで俳句のようです。
ところがヴァイオリンの演奏練習をまじめに毎日繰り返していると、目的が「難しい曲を弾くこと」に置き換わってしまいがちなのです。上記の例であげたピアニストの演奏のように、難しい曲を弾きまくって、それで満足してしまっているひとがとても多く感じます。
そのようなヴァイオリンの演奏って、抜けているのです。スカスカなのです。弦の表面をなぞっている感じです。
ヴァイオリンの特徴って、音のよさです。音の素敵さ、美しさです。そしてその音を構築して曲を演奏すべきなのです。だからこそ、常に原点に立ち戻って考え、追求する必要があるのです。そのためには、私が何度も主張している「理」が必要なのです。
そうしないと、折角の弦楽器の魅力が半減してしまいます。