ここ一週間、2本のヴァイオリンの音響比較実験を行っているのですが、ヴァイオリンの音、または性能を客観的(科学的に)に、そして的確に表現することはとても難しいことです。これは私のこれまでの個人的研究でも常に突き当たる壁なのです。

 なぜこんなに難しいかというと、ヴァイオリンという楽器が通常の楽器(管楽器は除く)と異なり、強制連続振動による発音を行う楽器だからです。通常の楽器は、発音し終えたら、あとは基本的には演奏者は関わる事ができません。音が独立するのです。ということは逆のことも言えて、実験と測定がしやすいのです。

 ところがヴァイオリンは複雑です。発音しているその瞬間にも、演奏者は摩擦力を一定に保つための調整を行っています。それも、「発音の瞬間」、「発音した後」、「音が伸びているとき」等々、複雑なのです(それ以前に、弓の性能でも全く音が違うのですから)。

 そして良い楽器とは、それらの微細な音色要因のどれもが優れている楽器と言えます。

 通常のFFT音色分析では、長く伸びている音の周波数を分析研究することは比較的簡単です。管楽器で言うところの「ロングトーン」です。ところが、このロングトーンの音色を比較しても、それほど差は出ないのです。しかし実際に演奏をしてみると、明らかな性能差を感じます。

 実際に演奏している奏者は、全ての発音のレスポンスや抵抗感を身に持って感じます。それが「弾きやすさ」とか「弾き疲れ」に直結するのです。また、聴いている側でも、ロングトーンの音色比較ではそこまで差を感じなかったものでも、実際に曲を弾き比べると、「発音のレスポンス(音の出だしのかすれ)」、「ダイナミクス」、「音色のバランス」等々、様々な要因を感じます。

 これらが本当の意味での「性能の差」なのです。もちろんそれらの複雑な要因の全てを解き明かして、表現することは不可能と思います。しかし、その中の顕著な「1つ」だけでも、と、私はしっぽを掴もうとしているのですが、なかなか・・・。

 よくテレビで、「**名器の秘密」みたいな番組で、色々と「秘密」を解明してくれますが、どれも笑ってしまう内容のことばかりですね。

 もちろんこれまで私が行ってききた実験の中で、ポイントとなるであろう事はいくつか見当がついているのです。しかし、それが当てはまらない場合もあるのです。ここが、自問自答しているところです。

 一つだけ言い切れるのは、「調べれば調べるほどに、難しさが見えてくる」という事実です。そして「良い音の本質」の行き着くところは、「遠足のおにぎり」であり、「芸術の本質は自分側にあるのではなく、聴く側にある虚像である」という、メビウスの帯状態に足を踏み入れてしまうわけです。

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